庭を赤とんぼが飛んでいた。 秋が始
庭を赤とんぼが飛んでいた。
秋が始まってからずっとその飛んでいる姿を見てきた。
しかし最近は少し行動が落ち着いてきたか、
とんぼの数も少なくなってきたせいか、
なんとなく寂しさを感じる。
飛んでいる姿が可愛らしくてまるでペットのように今まで見守ってきたが、
秋が終わればたちまち消えていってしまう。
気がつけばもうそろそろその時期がやってくるのだ。
この庭を飛んでいる赤とんぼも遊び相手がいなくて寂しいのかもしれない。
今まで庭の蚊を退治してもらっていたことだし、
せめてもの相手になれればと、縁側に座ってとんぼの世界に近づいた。
こっちに来ないかと、人差し指を差し出してみた。
するとすぐにとんぼがちょこんとその指にとまった。
ためらわずにやってきたその姿、なんて可愛らしい。
本当にペットのようだ。
にらめっこのようにお互いじーっと顔を見ていた。
とんぼは首を小刻みに揺らしていた。
まるで何か言いたそうな。
そして羽根をパタッとはじかせると、とんぼはそのまま飛んでいった。
空中で羽根をシュッシュッと羽ばたかせる赤とんぼ。
その羽根が飛んでいったあとの大空には、秋らしい巻雲が描かれていた。
晩秋の空気をかきわけて、どこへ行くのか赤とんぼ。
最後の秋を探しに。
最後の秋を楽しみに。
青空が映えている中で、小さく赤とんぼが飛んでいく。
空の青さに負けないように、はっきりとした赤色の体を見せつけながら。
真っ赤になったカラスウリの実も、そろそろ消えてしまう時期。
赤とんぼはその実のそばを飛び回り、
お互い真っ赤な体をしているもの同士、話を弾ませた。
街ではいちょう並木の黄金色が輝いていた。
風に吹かれて、いちょうの葉がゆるやかに舞い落ちる。
黄金色の葉がキラキラ光るステージを颯爽と駆け抜ける赤とんぼ。
一面黄金色の中でチラッチラッと見せる赤い色は、
街行く人の目を引くほどの、とても幻想的なものだった。
そして街を里を飛び回った赤とんぼは、
やがてもみじの落ち葉が広がる真っ赤なじゅうたんの中へ消えていった。
庭から赤とんぼがいなくなった。
ついに時期が終わってしまったのだ。
可愛らしく飛んでいる姿も、見られなくなってしまった。
思えば赤とんぼが大群でやってきたときは、
ああ秋が始まるなぁと感じていた。
動きが活発になるほど涼しくなってきて、
どんどん秋が深まっていった。
でも最近は寒いと思うほど気温が下がってきて、
冬というものを感じるようになってきたのだ。
もう秋が終わる。
そして赤とんぼも消えてしまう。
まるで生きる季節、まるで前線のような生き物だ。
本当に消えてしまったのか。
どこかに秋のかけらが残っていないだろうか。
庭を見てみた。
赤とんぼのように真っ赤な色をしたもみじの落ち葉がそこにあった。
どこからか流れてきたのか。
もみじの落ち葉は次から次に流れてきた。
それを見たとき、赤とんぼからの贈り物だと思った。
最後の秋を運んできてくれたのだ。
庭にヒラヒラと飛んでくるもみじは、
まるで赤とんぼのように見えていた。